読書感想文「ゲド戦記1 影との戦い」を読んで
https://anond.hatelabo.jp/20190823120243
この記事を読んで読書感想文についてつらつら考えているうちに、
実際に感想文書いてみるのも一興かと思って書いてみた。
一応原稿用紙3枚=1200字を目安にしている。
ファンタジーとSFにまたがり高い評価を得ているル=グウィンの、ファンタジー側の代表作・ゲド戦記。
その第一巻、「影との戦い」を読んでまず感じたのは、この世の生きにくさだった。複雑さ、と言ってもいい。
主人公のゲドは高慢な若者として育った。高慢さの理由は、彼自身の魔法の才能である。
山羊たちの「本当の名」を唱えてしまったことで、その才能を伯母に見出されて以来、ゲドは才能があれど孤独な少年として生きてきた。
彼の高慢さは、要するに、自分は特別な人間なんだという自意識過剰から来ている。しかしゲドのような境遇なら、誰でもそうなるようにも思う。
そして、彼の自己肥大は大きな挫折によって終わる。
友人との賭けにより、死者を呼び出すという、「ゲド戦記」世界の中で重要な世界の均衡を崩す魔法を、行使してしまうのだ。
そしてそれに失敗。恐ろしい存在を世界を呼び出してしまうとともに、師の一人を失う。
ゲド自身も死の淵をさまよい、ようやく起き上がった時には、自信喪失の状態にあった。
しかしそれは、ゲドにとっては(それと魔法の学院にとっても)不幸ではあるが、読者にとっては、高慢すぎる主人公、好感を抱けない主人公とおさらばできた、いい機会でもあるのである。
ゲドにとっても、逆境で身にしみて分かった友や師の大切さは、そのまま順調に魔法使いになっていただけでは得難いものであっただろう。
この一件、ゲドにとって大きな挫折が、高慢から謙虚さへの道を開いてくれた一件を大きく取り上げたのは、これがこの世の生きにくさ・複雑さを表すよい例だからである。
物事には多面性があるということ。
失敗から良いものが生まれたりして、でも失敗は失敗であり、同時に成功は成功だけれども、そこから悪いものが根を張ったりもする。
ゲドの師匠たちが揃って口にする重要なキーワード、「世界の均衡」とも関係するのであろう。
しかし失敗が良いものを生み、成功が悪いものを生む(こともある)というなら、今度は行動の基準が怪しくなってくる。
何をものに行動したらいいのか、何をベースに考えればいいのか、分からなくなる。
中盤、謙虚になったゲドだが、しかし惑う。
かつて彼が呼び出した「影」と戦うべきなのか、しかしそれは恐ろしい失敗を招きはしないかと、恐れて動けなくなるのである。
結局、最初の師であったオジオンの忠告で、影と戦う道を選ぶのだが、ゲドの恐れは正当である。
世界の均衡がそんなにも微妙なものなら、恐れて何もしないのが正しいような気がするのである。
物語後半、ゲドの学友であったカラスノエンドウが活躍する。
彼は親友としての真心から、恐れずにゲドの影狩りを手伝うのである。
実際のところ、何もしないのが正解という考え=虚無に対抗できるのは、彼のような人と人との関係性を大事にする心だと言えるのではなかろうか。
- 作者: アーシュラ・K.ル=グウィン,ルース・ロビンス,Ursula K. Le Guin,清水真砂子
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