(レビュー) HELLSING / 平野耕太

唐突にヘルシングが読みたくなってKindleまとめ買いしてしまった。

今(2017/10/09現在)ちょうどAmazonポイントもついてたしさ…。

 

[まとめ買い] HELLSING(ヤングキングコミックス)

 

んで3時間くらいかけて一気に読んだ。幸せ体験だったわ…。

 

事件が始まって終わる物語+@

読み返してみて、連載中は長丁場だったので把握しきれなかった部分が多々あった。

特に連載全体の構成がリアルタイムで読んでいたときは見えてなかった。

このマンガは、「少佐による通称『飛行船事件』が始まって終わる物語」だったのか。

いや気づけよって感じだけど、冒頭の婦警が吸血鬼になる事件とかは単なる「ヘルシング機関の紹介」ではなく、飛行船事件の立派な前触れだったのだ。

伊達男との戦いやリップヴァンウィンクル戦も、「いろんなシリーズがある中の一つ」という側面を持っていながら「飛行船事件」の中でも有機的に意味を持っていた。

例えばリップヴァンウィンクル戦は、よくある「敵組織を一人ずつ潰していく」展開という側面も持っているが、同時にアーカードを海の上に釘付けにする作戦であり、リップヴァンウィンクルは負けるものの釘付け作戦自体はハマっていた。

最後のみ30年後が舞台ではあるものの、基本的には少佐が描いた絵の、額縁の中でこのマンガは進められていたのだ。

これはもちろん構成力が必要なことだが、同時に一つの事件からいろんな描写を顕現する筆力も必要であったろう。

気づかないでごめん。

味方が最強な物語であり、敵役が勝利する物語

主人公のアーカードは戦闘では敵なしの存在である。

本人が強い上に倒して血を吸った敵の能力や記憶を自分のものにできる。

そんなの勝てないだろ!

最後らへんで示唆されているが、大軍勢でアーカードを追い詰めたとしてももし撃ち漏らしたら大軍勢の死体の血を吸ってパワーアップする。

確実に殺しきらない限り、パワーアップさせてしまう危険もあるのだ。

そんなのどうしようもないだろ!

実際飛行船事件では371万人犠牲になったことになっており、事件後のアーカードの中には342万人の命があったことになっている。

(誤差の30万人ほどはロンドン以外にいた想定だろうか)

つまり飛行船事件によって、アーカードは342万人ぶんの血を吸ってパワーアップする恐れもあったのだ。

そんなむちゃくちゃな強さを持つアーカードを静かに網の中に入れていったのが少佐である。

詳しくは書かないが、少佐は一応目的を達成した。

以上、この物語からは2つのチャレンジがあることがわかる。

一つは味方が最初から圧倒的に強いこと、もう一つは敵役が勝利する物語であること。

前者はバトルの緊張感を削ぎかねないし、後者は読者ががっかりしかねない。

しかし結果はめっちゃ手に汗握ったしがっかりもしなかった。

恐るべしヒラコー

サブカルネタの万華鏡

まず主人公のアーカード自体が、明確に「吸血鬼ドラキュラ」の敵役だったドラキュラ本人であると設定されている(アーカードアナグラム)。

さらに「吸血鬼ドラキュラ」のほうでドラキュラを打ち倒したヴァン・ヘルシング教授が、現ヘルシング機関の当主であるインテグラヘルシングの祖先であるとされている。

これを代表に、元ネタがある描写やキャラクターが多いのがマンガヘルシングの特徴である(リップヴァンウィンクルとかもそう)。

人気キャラのアンデルセン神父はヴァチカンに属しているのだが、主たる舞台であるイギリスにヴァチカンのキャラを絡めるのに際し、アイルランドを持ってきたりするあたりなど、よくできてるなー! と語彙力を失って感心してしまうほどだ。

そのヴァチカンにあることになっているイスカリオテ機関だが、これはどうも平野耕太の過去作からの客演(そのわりにはどっぷり出てきているしキャラが死ぬ)であるらしく、作者の知識と嗜好と経験を思いっきりつぎ込んで10年間ゆっくり書き進めたのが「HELLSING」であると言えそうだ。

濃いセリフ濃い絵柄濃い描写

セリフ回しは、あの有名な「諸君私は戦争が好きだ」に代表されるように巧みかつキャラが立っている。

絵やコマ割りなども、これは新作のドリフターズのほうがちょっと上かなと思いつつもいい感じ。演出力がすごい。

アーカードの術式が開放されたときに出てくる模様? など、「鋼の錬金術師」に近いセンスを感じる。

ハガレンも画力というよりは演出力に秀でた絵描きさんだし、だいたい同じころの連載だったと思うのでなにかつながりがあるかもしれない。

(敵方の遠大な計画に主人公が巻き込まれるという基本構図が似ている気もする。ハガレン読みたくなってきた)

残念な点

残念な点はあまりないのだが、しいて言えば新米吸血鬼であるセラスが、「(夜の住人である吸血鬼に対し)夕方をおっかなびっくり歩いているが、それでいいのかもしれない」という立ち位置が好きだったのに、

作中で初めて血を吸って本格的に吸血鬼になったあとはその「夕方をおっかなびっくり歩く」セラスという価値観があまり尊重されなかった気がする。

でもその初めて血を吸ったシーンは熱い熱いシーンなので許す(何様)。

まあその点も含め、描写不足なところは散見される。

が、それもまた「飛行船事件」という額縁にフォーカスした部分と絡み、物語に深みを与えていると言えなくもない。

総評

今回は絶賛だった…。読んだばかりなのもあるかもしれないがこの物語は絶賛されるに足るよ。